
猫と暮らす賃貸、退去時の原状回復費用は誰の負担になるのか — 国のガイドラインと都の相談事例で確認する
猫による柱の傷やにおいは誰の負担になるのか。国土交通省のガイドラインと東京都消費生活総合センターの相談事例をもとに、原状回復の基本の考え方を整理します。
そもそも「原状回復」とは何を元に戻すことなのか
原状回復と聞くと「入居前の新品同様の状態に戻すこと」と思われがちですが、それは誤解です。
東京都消費生活総合センターは、原状回復を「通常使用の損耗や経年変化以外の故意・過失等により生じた傷や汚れを復旧させること」と説明し、「元のきれいな状態に完全に戻すわけではない」と明記しています。
つまり、普通に暮らしていて生じる傷みは家賃に含まれており、借主が直す義務はありません。義務があるのは、通常の使い方を超えて生じさせた傷や汚れだけです。
猫の傷やにおいは、なぜ「借主負担」になりやすいのか
同センターに実際に寄せられた相談では、ペット飼育可のアパートで小型犬を5年間飼育していた人が、退去時に24万円の原状回復費用を請求されたケースが紹介されています。契約書には「ペットによる汚損・破損は全額借主負担」という特約があり、納得できないという内容でした。
この相談へのアドバイスとして、同センターは次のように説明しています。
- ペットによる汚損・破損は「通常の使用を超える損耗」と判断されるのが一般的
- 換気不足による結露のカビ・シミ、喫煙によるヤニ・臭いも同様に扱われる
このケースは犬の事例ですが、判断の考え方はペット全般に共通するもので、猫の爪とぎによる柱の傷や、トイレのにおいが壁紙に染み付いた場合にも同じ理屈が当てはまります。
国のガイドラインは、損耗をどんな基準で分けているのか
この「通常の使用を超えるかどうか」という線引きのもとになっているのが、国土交通省が1998年に策定し、2004年・2011年に改定した「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」です。
同省の解説ページによると、基本的な考え方は次のとおりです。
- 経年変化、通常の使用による損耗等の修繕費用は、賃料に含まれるもの(貸主負担)
- 借主の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損は借主負担
さらに損耗を3つに分類しています。
区分は3種類あります。「A」は通常の住まい方をしていても発生するもので借主負担外、「B」は住まい方・使い方次第で発生の程度が変わるもので借主負担、「A(+B)」は基本的にはAですが手入れ不足などで通常より損耗が拡大したもので借主負担、という整理です。猫による柱の傷やにおいは、住まい方によって発生の程度が変わるため「B」寄りに扱われることになります。
経過年数を考慮すると、負担はどう変わるのか
借主負担になる場合でも、修繕費用の全額をそのまま請求されるわけではありません。国土交通省のガイドラインは、設備の経過年数(古さ)を考慮する考え方を採っており、設備が古いほど借主の負担割合は小さくなります。
同省のQ&Aページでも、修繕の範囲について「各部位ごとの経過年数を考慮したうえ、最低限可能な施工単位で修理するのが妥当」との考え方が示されています。壁紙の一部にしか傷がないのに部屋全体の張り替え費用を請求される、といった過大な精算はこの考え方になじみません。
| 区分 | 内容 | 負担者 | 具体例 |
|---|---|---|---|
| A | 通常の住まい方をしていても発生するもの | 貸主 | 経年変化・通常の使用による自然な傷み |
| B | 借主の住まい方・使い方次第で発生の程度が変わるもの | 借主 | 猫による柱・クロスの傷やにおい、喫煙のヤニ・臭い、換気不足による結露カビ |
| A(+B) | 基本的にはAだが、手入れ不足などで損耗が通常より拡大したもの | 借主 | 手入れを怠ったことで自然な傷みが広がったもの |
「ペットは全額借主負担」の特約は本当に効くのか
ここまでの一般原則よりも、契約書に個別の取り決め(特約)がある場合は、そちらが優先されます。東京都消費生活総合センターも、次のように説明しています。
- 契約書に「退去時のクリーニングに関する特約」があれば、その特約に従うことになる
- ペット飼育可物件では「ペットによる汚損等について特約を定めているケースが多い」ため、契約書をよく確認すべき
- ペット飼育禁止物件で無断飼育した場合は契約違反となり、ペット関連の原状回復費用は借主負担になる
つまり「ペット可だから安心」ではなく、契約書のどこにペットに関する特約が書かれているかを、入居時にきちんと確認しておく必要があります。
退去でもめないために、入居中にできることは何か
東京都消費生活総合センターは、原状回復トラブルを避けるための具体的な行動も挙げています。
具体的には次の4点です。
- 貸主に対して、退去時の立会いと確認を必ず求める
- 日付が記録された写真を、入居時・退去時それぞれで撮っておく
- 原状回復費用を請求されたら、内容について納得がいくまで説明を求める
- 負担部分や経過年数を考慮して、交渉する余地があることを認識しておく
猫を飼っていると、柱の傷やにおいなど負担が発生しやすいのは事実です。だからこそ、入居時から記録を残し、契約書の特約を把握しておくことが、退去時の思わぬ高額請求を避ける一番の備えになります。
出典
- 住宅:「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」について - 国土交通省
- 住宅:「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(再改訂版)のQ&A - 国土交通省
- 賃貸アパート退去時に高額な原状回復費用を請求された! - 東京くらしWEB(東京都消費生活総合センター)
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